COMIN’ YOUR WAY (BLUE NOTE)

STANLEY TURRENTINE (1961/1/20)

COMIN' YOUR WAY


【パーソネル】

TOMMY TURRENTINE (tp) STANLEY TURRENTINE (ts)
HORACE PARLAN (p) GEORGE TUCKER (b) AL HAREWOOD (ds)
【収録曲】

(01-03) MY GIRL IS JUST ENOUGH WOMAN FOR ME / THEN I'LL BE TIRED OF YOU / FINE L'IL LASS
(04-06) THOMASVILLE / SOMEONE TO WATCH OVER ME / STOLEN SWEETS
【解説】 ( 2015年03月08日更新 / 連載 1,156回 )

 美杉というところに行って来ました。 …という話の続きです。 無理に引っ張るほどのネタでもないんですが、他に書くこともないので、さ、頑張りましょう。 前回 、4つのミッションのうち、何とか半分までクリアしたというところまで話が進んでいたかと思うんですが、次に待ち受けているのが最大の難関と目されている、薬注ポンプの取替という任務であります。 ヤクを注入するポンプ。 そういう役割の機器であるわけですが、今回、注入されることになっているヤクは次亜塩素酸ナトリウムというものである為、別名・次亜注入ポンプと呼んだりもします。 アジがさほど好きではない僕は、次亜 (じあ) もあまり好きではなかったりするんですが、仕事となると、次亜でも何でも注入しなければならないのが辛いところでありますなぁ。 そういえば 「ラブ注入」 をお仕事にしていた人は完全に消えちゃいましたが、とまあそんなことで、とりあえず頑張りましょう。 今回の話は文字だけでは説明しにくいので簡単な絵を書いてみたんですが、

着工前♪

 これが着工前の状況です。クリックすると別画面で開くと思うんですが、画像はイメージでありまして、実際はもっと古い型の次亜注入ポンプが設置されておりました。 それを新しいタイプに替えるというお仕事なんですが、古いヤツは取扱説明書も何もないので、設定がどうなっているのか、よく分からん。 もし実物を見て何か分かるようなら、新しいほうも同じように設定して来て欲しい。 そういう、けっこう無茶な依頼だったりしたんですが、古いポンプの動作を観察したところ、どうやら制御盤から40秒に1回、ぴょこんとパルス信号が出されて、それでビクっとして、中のダイヤフラムがパコっと動く。 そういう仕組みになっている模様です。 ポンプには電線が2本、コネクタで繋がっていて、それぞれ電源線とパルスの信号線であるらしいんですが、新しいポンプの回路と比べてみると、パルス信号を繋ぐコネクタの番号が違うっぽいような? とりあえず適当に線を振り替えてみて、うまく動けばラッキー。 もし駄目だったらその時はその時で、また考えるとして。 パルス信号だから、線を繋ぎ間違えて、一瞬にして壊れて、ワロス。 そんな事態にはならないものと思われます。 昔、白黒のブラウン管の小さなテレビに間違えて違ったACアダプタを繋いだ時は 「ぽんっ!」 と音がして、中から白い煙が出て来て、それっきりだったんですけどね。 運が悪かったとしか言いようがないんですが、悪運はあの時点で使い切っちゃったので、今回は恐らく大丈夫なのではなかろうかと。 電気側のほうは何とかなりそうな目処が付いたので、じゃ、本体の取替をやってみますかね?

手順1♪

 手順としてはまず、ホースの取り外しから。 とりあえず吐出側のホースを外してみることにしました。 この時、よく薬液が逆流して噴出したりするので、ビビリながら、おそるおそるやってみたんですが・・・。 おお、大丈夫そうっすな。 今日の僕はついている♪ そう思わずにはいられませんが、ここまでくればもう、終わったも同然。 今日はわりと仕事が早く片付きそうなので、帰りにどこか、観光スポットにでも寄ってみようか? そんなことを考えながら、しばらくぼーっとしていたんですが、するとその時、予期せぬ事態が。

ぴゅー♪

 よく見たら、ポンプの口からめっちゃ次亜が吹き上がっとるやんっ! 何でや? 落差か? 落差のせいなのか!? ポンプより薬液タンクのほうが高い位置にあるので、よくよく考えたら、それは充分に予期出来る事態だったんですが、でもまあ、何も考えてなかったから、仕方ないっすよね? 慌ててホースを元に戻して事なきを得たんですが、おそるおそるタンクの中を覗いてみると、ほぼ空になっちゃってました。 でもまあ、仕方ないっすよね? ぼーっとしている時間が長くて、気付くのが遅れただけの話だしぃ。 ま、次亜なんて1日にそんなたくさん使うものでもないし、お客さんには 「タンク、空になってましたよー。」 と、 結果だけをさらっと報告しておけば、それで何とかなるのではなかろうかと。 逆に考えれば、タンクが空になったお陰で、これからは次亜の噴出に気を取られなくて済むと、前向きに捉えることも出来るんですが、とまあそんなことで気を取り直して、 (手順1) からやり直し。

正しい手順1♪

 吸込側のホースから外せばよかったんですなー。 人生、ちょっとした失敗から学ぶことは多いんですが、分かってしまえばもう簡単。 …と思ったら、ホースがコネクタに引っ付いていて、うまく抜けません。 で、強引に引っ張ってみたら 「バキッ!」 と音がして、コネクタが割れてしまいました。 でもまあ、それでホースが抜けてくれたので、結果オーライ。 ただ、勢いよくホースから次亜が流れ出してくるのがちょっと誤算だったんですが、何でや? タンクは空になったんと違ったんか!? 慌ててホースの先を高い位置まで持ち上げて事なきを得たんですが、改めてタンクの中を覗いてみると、底のほうに液面があるように見えたのはタンクの継ぎ目のせいで、実際は半分くらいまでナミナミと次亜で満たされていることが判明しました。 ああ、こりゃ、吹き出しますわ、間違いなく。 とにかく、 「タンク、空になってましたよー。」 と、余計な報告をする手間が省けて何よりなんですが、僕は根が正直なので、ついつい 「ちょっと次亜をこぼしちゃいました。テヘッ♪」 とか、余計なことを言っちゃいそうだったし。 ま、それはいいとして、この分ではこの先も相当に次亜まみれになっちゃいそうですなぁ。。。 タンクの出口にバルブが付いてないという、施工時の致命的な設計ミスのお陰で、何の罪のない僕が被害を被ることになって、理不尽なこと、この上ありません。 とまあ、そんなこんなで悪戦苦闘しながら、何とか新しいポンプにホースを接続しようと奮闘していたその時、この作業の依頼主であるところの青年から電話が掛かって来ました。 「薬注ポンプのほう、うまくいきましたかぁ?」 「あ…、今、大ハマリしてるんやけど…」 「マジっすか? パルスの設定とか、何とかなりそうっすか?」 「・・・・・。」 「無理そうなら古いポンプに戻して貰っていいっすよぉ。 あまり長い時間、次亜を止めてるとヤバいっすから。また薬注屋さんに来て貰いますんで。」 うん、そうするぅ。 それがいいと思う〜。 というか、最初っからそうするべきやったと思う〜。 敗北感が半端ありませんが、一度は敗北したサイボクハムの温泉も復活したみたいだし、何でもいいけど敗北って、どうして 「北」 なんっすかね? 敗北の反対の 「勝南」 とか聞いたことないし、何か中国的に深い意味があったりするとか? …と思って調べてみたところ、敗北の 「北」 は方角ではなく、二人の人が背を向けあっている様を示した漢字で、うんぬん。 そんな解説が出て来たんですが、そう言えば 「背」 という漢字も上のほうが 「北」 だったりしますな。 指南車とか、南に向いてる窓を開けるジュディ・オングとか、北に背を向けることになるので、こういう漢字が出来たんでしょうが、とまあそれはともかく、さっさと元の薬注ポンプに戻す作業に取り掛からなければなりません。 あまり長い時間、次亜を止めてるとヤバいっすらしいっすからねー。 急がなければなりません。

 戻すだけなら簡単。そう思っていたんですが、これがなかなかの難工事でありました。 頑張って吸込側のホースを繋いだんですが、そこから次亜がダダ漏れ。 そう言えば、さっき、コネクタが 「バキッ!」 とかいって、折れちゃったんでしたっけ? 駄目じゃん! 幸い、新しいほうのポンプに付いてきたコネクタを使うことが出来て事なきを得たんですが、何とか頑張って元に戻して、あとは電源を入れるだけ。 ちょっと、ヤバイ領域に足を踏み入れてしまったかも知れないくらいの時間は止まっていたような気がしないでもないんですが、それはまあ、今からガンガン注入することによって、トータルで辻褄を合わせるとして。 ということで、電源投入。 ・・・・・。 ウンともスンとも言いません。 制御盤から40秒に1回、ぴょこんとパルス信号が出されて、それでビクっとして、中のダイヤフラムがパコっと動く筈なのに、ビクっとも、パコっとも言いません。 40秒に1回とか、まどろっこし過ぎるので、手動にして0.8秒に1回くらい、ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダ・ダとパルスを出してみたんですが、反応せず。 も…もしかして、古いポンプ、お亡くなりになっちゃった? 死因はよく分からんのですが、シーンと静まりかえっていて、息をしていないのは確か。 ま、もともと調子が悪かったから取り替えることになったんだと思うので、とどめを刺したとか、安楽死処分とか、結果的にそういうことになっちゃったのではなかろうかと。 それもまあ、運命っすよね。 安らかにお眠り下さい。 人の命に代わりは無いんですが、幸い、薬注ポンプには代わりがあります。 しかもピカピカの新品。 君の出番はもうちょっと先になるかと思っていたんですが、そうも言っておられなくなっちゃいました。 さ、今すぐに働け!

 ということで、再び取替作業を開始。 ホースを外す度に次亜がダダ漏れになっちゃいますが、そんなことを気にしてる場合じゃねえ! とまあそんなこんなで、苦難の末、何とか新しいポンプで何とかなりそうな気がしないでもないところまで漕ぎ着けることが出来たんですが、とりあえず手動運転の100%出力でパコ・パコ・パコ・パコ・パコ・パコっと、次亜注入っ! これで何とかモトは取れるんじゃないかと思うんですが、ここまで来れば一安心。 あとは落ち着いて、パルス入力で自動で何とかする方策を 見つけてやれば大丈夫です。 ま、それは取扱説明書を見れば何とかなるんですが、とりあえずパルス入力の場合、この辺りを何とかすればよさそうな気がしないでもありません。

取扱説明書♪

 分周モードと倍率モード。 何だか小難しくて、真面目に読む気がしませんが、要は1パルスで1回パコっと動けばいいんじゃね? そんな気がしないでもないので、とりあえず倍率モードで、n=1に設定しておきました。 で、モードを自動に変えてみると、何だかソレっぽい動きをしてくれたので、これはもう、完全勝利であると言っていいでしょう。 なんのかんの言って、やっぱり僕って頭がいいっすよねー。 技術力も半端ないし、どんな仕事でもサバくんに任せておけば安心♪ …みたいな。 ま、依頼人の見立てで、ここまで午前中で片付く予定が、すっかり夕方まで掛かってしまって、残る1件は翌日に持ち越しということになっちゃいましたが、そのほうがゆっくり観光も出来て、結果的にはよかったと言えそうです。 だだひとつ、気になる点があるとすれば、お亡くなりになってしまった古いポンプがどういう設定になっていたかなんですが、前年ながら本人から直接話を聞くというわけにもいきません。 出来ることと言えば、亡骸をじっと眺めて、生前の活躍に思いを馳せることくらいなんですが、新しいポンプはハイテクを駆使した7セグメントLEDの表示なんですが、古いほうは昭和の時代を感じさせる機械式のカウンタみたいなものが付いていて、そこには 「802」 という謎の数字が表示されておりました。 ワケわかんねぇ。。。 これは見なかったことにしておくのが正解ではないかと思うんですが、頭のいいサバくんは、ピンとひらめいちゃいました。 もう、ヒラメも真っ青の、ひらめき具合。 よくよく見ると、最初の桁のところに 「1−7 : 停止 8 : ×N 9 : 1/N」 と書かれていて、残りの2桁のところに 「N」 と書いてあるような? これはもしかしてアレなんじゃね? 「802」の最初の “8” は “×N” で、新しいポンプでいうところの倍率モード。 で、その掛け率が残りの2桁の数字で、つまり “n=2” なんじゃね? で、試しに “n” の設定を “1” から “2” に替えてみたところ、 1回のパルス入力で、ダイヤフラムが2回、パコ・パコッと動作しました。 あ、これこれ。 そう言えば古いポンプもそんな動きをしてました。 今、鮮明にそのことを思い出しました。 危うく、今までの半分の量しか次亜を注入しない設定にしちゃうところでしたが、いやあ、帰る直前に気が付いて、よかったっす。 やはり、死んだ人の声に耳を傾けるというのは大切だな。 そう思い知らされた次第でありますが、ということで、あの日から僕は 「イタコの伊太郎」 に弟子入りして、「筋子のスジ郎」 とか、そういうのを目指す決意を固めた次第でありますが、とまあそんなこんなで、筋のない今日のお話は、おしまい。

 ということで、今日はスタンリー・タレンタインっす。 通称スタ・タレ。 兄のトミー・タレンタインはトミ・タレで、こちらはトランペットを吹いたりします。 ジャズ界のタレ兄弟として知られておりますが、この2人に直垂(ひたたれ)を加えて “世界3大タレ” と言ったりしますよね。 バカタレや、クソッタレといった強豪を抑えて、この兄弟がベスト3に食い込んだのは立派な功績であると思いますが、で、スタンリー・タレンタインと言えば、アメリカでは最も高いギャラを取る男として知られております。 『完全ブルーノート・ブック』 にそう書いてありました。 ま、ジャズの世界に限定した話なんでしょうが、日本での人気の度合いを考えると、ちょっと信じられない気もしますな。 ハロルド・ランドやチャーリー・ラウズよりは、ちょっと上と言った程度ですもんね。 ま、アメリカ人って、大衆迎合的で、能天気で、翳りのないキャラが好きだったりするので、まったく分からん話でもないんですが、対して日本のジャズ・ファンの間では、こういうキャラは馬鹿にされ、低く見られる傾向にあったりします。 が、実際に聞いてみると、ケレン味のない真っ当なスタイルの持ち主であることが判明したりして、個人的にはわりと好きだったりするんですが、今日はそんなスタ・タレくんの 『カミン・ユア・ウェイ』 というアルバムを取り上げてみたいと思います。 フロントに兄貴のトミ・タレを配して、リズム・セクションにはホレス・パーランジョージ・タッカーアル・ヘアウッドという、なかなかに真っ黒ソソられる布陣を擁しております。 『アス・スリー』 のトリオっすよね。 これだけの面子を揃えておきながら、本作は未発表のまま、オクラ炒り煮…、いや、お蔵入りになっていたそうですが、それが信じられないような素晴らしい出来に仕上がっているのかどうかは、聞いてみないことには何とも言えません。 ということで、聞いてみましょう。

 1曲目、 「マイ・ガール・イズ・ジャスト・イナフ・ウーマン・フォー・ミー」 。 さほど有名ではない歌物ナンバーではないかと思われますが、 「私の女の子は私のためのちょうど十分な女性です」 っすか。 ぶっちゃけ、ちょっと不細工なんだけど、性格はめっちゃいいし、僕にとっては分相応だよね。 そういったところっすかね? ブサかわ好きの僕としては大いに共感が持てるんですが、曲のほうも親しみやすい旋律を持った、なかなかの佳曲だったりしております。 (前略) 優しいトーンを失わないまま、充分に骨太な感じとスイング感を獲得している。 スタンリーは軽い足取りでメロディーを奏で、やがて、トミーとパーランにフォローされ、簡潔かつ情熱的なソロに突入していく。 ジョージ・タッカーは動き回り、力強い支柱となっている。 でしゃばらないが非常に優れたベースラインで全体をドライブさせている。 そう、原文ライナーにあるようなプレイが展開されております。 by マイケル・カスクーナ (訳:赤塚四朗) っすな。 カスクーナは、カス食わない立派な評論家だったりするので、カスばかり食わせている僕ごときが付け加えることなど、何もなかったりするんですが、敢えて追記するなら、スタの後にトミのソロがあって、続いてパーランのピアノが出て来て、らんらららん♪ それくらいっすかね。 ぶっちゃけ、トミ・タレは “世界3大タレ” に算えられるほどの大物ではなかったりするので、この人のソロがちょっと弱い気がしないでもないんですが、パーランはいいっす。 長島スパーランドと同じくらい、いいっす。 この夏、 新機種 も出来るようなので、東日本の人たちも是非遊びに来て欲しいと思うんですが、で、最後にスタが再登場して、短いながらもイケてるソロを聞かせてくれて、でもって、歌心に溢れたテーマに戻って、おしまい。 いやあ、なかなかの出来でありましたなぁ。

 ということで、次。  「ゼン・アイル・ビー・タイアード・オブ・ユー」 。 これまた、さほど有名ではない歌物ナンバーではないかと思われますが、 「そして、私はあなたに飽きています」 っすか。 「美人は3日で飽きる、不細工は3日で慣れる」 といいますが、倦怠感に溢れた珠玉のバラードに仕上がっております。 出だしはトミのほうのタレ、続いてスタのほうのタレが、それぞれワン・ホーンでメロディを吹くという、そういう趣向なんですが、トミ君のB級っぽさが、なかなかいい味を出していると思います。 (前略) トミーがメロディーとヴァースを演奏して始まる。 スタンリーが形式を整え、彼独特の美しいバラッド・ソロに入る。 トランペット・ソロもテナー・ソロもともに実に名状しがたいが、鋭く、ビタースウィートな切れ味を持っている。 カスクーナくん的には、そういう解釈になるようですが、いいっすよね、ビタースウィート。 正露丸糖衣って感じ? あれはスウィートからビターへの変異があまりにも豹変過ぎて、喜んで舐めていた子供が泣き出すレベルだったりするんですが、僕の子供の頃の苦い思い出でありますなぁ。 …とか言ってるうちに演奏のほうは終わってしまいましたが、ピアノのソロとかはなかったような気がする、ほんのちょっとした小さなプチ小品。 そういったアレでありました。

 で、次。  「ファイン・リル・ラス」 は巧妙なマイナー・ブルースだ。 ジャズ・メッセンジャーズの手法に則ってダイナミクスがうねりまくるのである。 そんなふうに書かれていたので、ちょっと期待しちゃったんですが、ま、確かに巧妙なマイナー・ブルースであるな。 そういった感じはあるものの、ダイナミクスがうねりまくるという程ではないような? ま、スタ・タレのソロはこの上なくグルーピーで、臭さ満載で、たまらんっ♪ そういうアレだったりするし、それに続くトミ・タレもまずまずだし、以下、パーラン、ジョージ・タッカーと続くところは 『アス・スリー』 な黒さが充満しているし、でもって、ちょっと地味なテーマに戻って、おしまい。 うねるダイナミクスに過度な期待さえ持たなければ、充分にイケてる出来であった。 そのように評価していいと思います。 で、次。  「トーマス・ビル」 はトミー・タレンタインのオリジナル。 機関車で稼いだトーマスが、ついに自社ビルを建てた。 そんなサクセス・ストーリーを曲にしたものではないかと思うんですが、僕も自社ビルを建てるのが夢だったりするんですよね。 中にボディビルを入居させたりして。 が、よくよく考えたらマッチョな男とか、ぜんぜん好きではなかったりするので、速攻で退居させてやろうと思うんですが、24小節のバピッシュな曲で優れたソロが聴ける。 スタンリーが正統な初期R&Bスタイルを取り、背後でホレスがライオネル・ハンプトン・タイプのリフを付けている。 ボブ・ポーターが指摘したように、ここでのトミーのソロはファッツ・ナヴァロの強い影響が窺える。 タッカーとヘアウッドの簡単なステイトメントにフォローされ、パーランが凄いソロを取る。このトラックでは全員が上手く展開し巧みに構成されたソロを披露している。 そういったアレだったりするようです。 で、聞いてみたところ、確かに巧みな構成のソロだったりしたんですが、巧みなと言えば、 タクミナ 。 今回、僕が取り替えた次亜ポンプはこのメーカーの製品なんですが、TACMI=「匠」たくみは創意工夫の心を表し、NA=「自然」Natureは生命・自然の尊重を忘れることなく、安全と安心を提供するという思いが込められている。 ほぉ、匠ネイチャーだったんすか。 またひとつ賢くなりましたな。 個人的には 「たるみ姉ちゃん」 のほうがいいかな? そんな気がしないでもないんですが、変に引き締まっているよりは、ちょっとたるんでいるくらいのほうが親しみが持てて、いいっすよね。

 ということで、次。  「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーバー・ミー」 。 かなり有名な歌物ナンバーでありますな。 これの邦題がどうして 「やさしき伴侶を」 なのか、今ひとつよく分からなかったりするんですが、 こんな感じ の歌詞だったりするようです。 「私の男の子は私のためのちょうど十分な男性です」 を求めてるような感じ? 伴侶にするなら、お坊さんがいいな♪ …みたいな。 そりゃ、僧侶やがな。 で、カスクーナいわく、(前略) ソウルの欠けたシンガーたちに度々踏みにじられてきたが、ここではスタンリーが見事に再生させている。 これは彼の十八番だ。 そしてまた、バラッドの名手であることも証明している。 スタンリーは若い頃ベン・ウェブスターとドン・バイアスに大きな影響を受けたと公言している。 彼が真摯に学んだであろうことが良く分かる。 そういうアレであったりするようですが、パーランの弾く美しいピアノのイントロに続いて登場するテーマの旋律は、 「はるばる来たぜ函館〜♪」 っすよね、途中まで。 「イン・ア・センチメンタル・ムード」 や 「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」 も同様で、世間では “函館フレーズ” と呼ばれている音階だったりするようですが、スタ・タレくんの吹きっぷりは確かにベンやドンの影響を強く感じさせますな。 ま、ドンのほうは聞いたことがないので、どんなバイアスなのかよく分からなかったりするんですが、魅惑のムードテナー。 その系列であると思っていいでしょう。 顔はちょっとゴツいんですが、根は優しいナイスガイなんでしょうな、スタ・タレくん。 このプレイを聞いていると、そんな気がしてくるんですが、続くパーランのソロも、あまりクドくない抑制の効いたものだったりして、しみじみと心に染みます。 背後で聞かれるジョージ・タッカーもジョー・タツっすなぁ。 とってもベースが上達しております。 とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。

 で、残すところあと1曲。 ここまで来ればもう、終わったも同然なんですが、 「ストールン・スイーツ」 はワイルド・ビル・デイビスのオリジナルだそうです。 さほどワイルドではない、ほのぼの系のハード・バピッシュなナンバーだったりするんですが、ここでのスタンリーのソロは決定的に素晴らしく、尽きることのないアイディアの連続である。 そう、カスクーナくんが評しております。 概ね同感なんですが、僕のアイディアとヤル気は尽きてしまったので、とまあそんなことで、今日は以上っす。

【総合評価】 お蔵入りになっていたのが信じられないような素晴らしい出来に仕上がっているのかどうかは、聞いてみないことには何とも言えないんですが、聞いてみたら仕上がっていた。 そんな1枚でありました。 侮れませんなぁ、スタ・タレも、オクラも。


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